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 日本2020年、未知の領域

最終更新日:2020年2月19日

オランダ在住アーティスト イェッケ氏の「オランダのデルフトタイルで甦る岩屋寺仁王像プロジェクト」実施の際、共に来町されたラットバウド・ムライン氏発信のエッセイを紹介します。

日本2020年、未知の領域

 

 人々で賑わう有名な大都会、大阪から列車を乗り継ぎ、6時間離れた未知の場所、そこからはじまる旅をご想像いただきたい。:馴染みのない風景と「Gaijin」が見当たらない人口の希薄な地域である。

 

新幹線に乗って、忙しい空間を脱し、国産デニムの聖地である岡山からレトロな特急列車に乗り換え、新見、根雨、宍道など、名前を知らぬ町を次々と通過していく。宍道駅からワンマン列車にもう一回乗り換え、幡谷、木次など、駅から駅を経て、ようやく出雲横田駅にたどり着く。この6時間の中で、何もない空っぽの空間、橋、トンネル、青々とした森林、里山と日本の棚田百選になっている山王寺を含む数多くの古い水田のような景色が通り過ぎるていく。そして、木次線の上りと下りをもがいて走るディーゼル機関車の馬力に気づかされる程の急な勾配が続く地域である。

目的地に到着すると、まず目に入ってくるのは1934年に建てられた木造の駅舎である。出雲横田駅は、日本全国の神々が年に一度集う最も古い神社、出雲大社を模造した建物で、しめ縄も飾ってある。


奥出雲町の横田への旅は、過去と未来へ同時にさかのぼるようなものである。なぜなら、横田を含め、島根県と日本の地方で急激に進んでいる過疎化、人口減少という社会現象は、これから20年~40年のうちにオランダでも起こり得るかもしれないからだ。私は、社会経済的なあり方にいきなり疑問を感じざるを得ない。

 

私が横田を訪れたきっかけはオランダ人アーティスト、「イェッケ・ファン・ローン」のプロジェクトのためだった。アムステルダム国立美術館に展示されている横田の仁王像の地元返還を目標とするプロジェクトである。この木製の仁王像は、島根県の横田に存在した岩屋寺に700年間にわたって安置されていたが、12年前にアムステルダム国立美術館によって購入された。彼女のプロジェクトの詳細については、こちら

 

過去数十年の間、日本を度々訪れている私の滞在は、三大都市に限られていたため、島根県へ出かけたことは、まるで悟りの旅のようであった。

つまり、“知られざる日本”を理解したければ、東京と大阪の会議室を出て、遠く離れた地方へも訪れるべきである。ですから、このエッセイを通して、読者の皆さんを「訪れる観光客の少ない日本」への珍しい旅へ案内し、その日本の片田舎と呼ばれる町の過去と現在、未来を探っていきたいと思う。

まず、現実、統計とフィクション:島根県は本州西部に位置し、日本海に面している。面積はオランダの6分の1であるが、人口67万人の島根県は、オランダの全人口の25分の1である。統計によると、日本の面積の2%を占める島根県には、全人口の0.5%しか住んでいない。隣接の鳥取県は47都道府県の内、人口が一番少なく、スターバックスができる以前は、全国でスターバックスが出店していない唯一の県として有名であった。

 

現在、島根県は日本の僻地ともいえるが、歴史は古く遙かなロマンが漂う土地である。2009年には、約12万年前のものとされている日本最古級の石器が出雲市から発見された。これは、日本列島に原始人が現れたと推定される年代よりも更にその8万年前に溯ることになるのである。この地はおそらく、“日本”の起源となるかもしれない。

712年に編纂された古事記にも神様が出雲の国から日本全国を治めていたということが書かれている。開国後の外国人作家、小泉八雲も『知られぬ日本の面影』の中で、日本を神国と呼び、その拠点として出雲国を示した。

1500年前に再創建された日本最古の神社の一つ、出雲大社では毎年11月に、全国の神々が集う。日本では、11月のことを神無月というが、この地方では神在月と呼ばれる所以である。出雲の神話が、ギリシアのオリンパス山とその山頂に宿る神々の神話とかなり似ているように感じる。

風土と気候のおかげで、島根県は農業、漁業、米作りと朝鮮半島との貿易が非常に盛んで、銀と鉄などの鉱物資源も豊富であった。奥出雲町で採取された砂鉄がたたら製鉄法によって、良質の玉鋼を生み出し、古代から日本刀の原料となっていた。現在も、日本刀鍛錬に使われる玉鋼の8割が奥出雲町内で生産されている。日本刀には、神秘的な力が宿り、神話の地という島根県のイメージに適応しているのではないか。1860年時点で、奥出雲町の人口は約3万人であったが、そのうちの約25、000人は、たたら製鉄に携わっていたといわれる。現在、町の人口が13,000人弱までに減り、福祉と長期介護に携わる人が実質的に増えてきた。

島根県にある世界遺産の石見銀山は、オランダの古い世界地図にも記され、石見銀の鉱業が絶頂を迎えた17世紀には、世界の産銀量の3分1を占めていた。石見銀山が産出した良質な銀は、出島経由で海外へ流通した。島根県とオランダの関係は銀貿易に限らない:明治時代の哲学者、西周氏は、島根県津和野町出身で、日本に西洋哲学を導入した人でもある。1863年、幕命により、津田真道氏とオランダのライデン大学に留学し、当時、オランダの一流経済学者シモン・フェッセリング教授の下で学んだ。帰国後、目付に就任し、ヨーロッパの社会学、法律学と国際法を日本に紹介し、近代化への方向を大きく影響しながら、東アジアにおける文明化の再定義も果した。その結果、日本の偏辺にある島根県の県立図書館には、西洋医学と蘭学をテーマとしたオランダ語の古い本が数多く並び、420年にわたる日蘭交流の有形的な証でもある。

神々が宿る聖地と日本文化の発祥地と呼ばれる島根県だが、現状はかなり厳しい:町の過疎化、高齢化、雇用難と所有者不明土地。神の国が、全て神に残されたようである。横田出身の南さんの話によると、地方では農業等のような製造・生産業が次々と廃業している。彼は、家の前にある狭い水田へ私を案内し、次のように語った。「今後の日EU経済連携協定と米国との自由貿易協定が、この地域に及ぼす影響について考えてみたことがおありになるか?今のところ、お米の自給が可能となってきているが、自由化後の欧米系大手との競争に耐えられるはずがない。天然資源に恵まれ、木材生産も盛んであったが、今は木一本の値段が大根一本と変わらない。それよりも、若者が地元に残っても、できる仕事はもうない。」

地方では過疎化が進んでいるが、3大都市に集中している3分の2の人口も減少することが予測されている。日本の人口は2010年にピークを向かえ、現在、1.26億人となっている。

2040年に1億人と更に減り続け:2110年までに、わずか5300万人に縮小してしまう。

人口減少の二つの要因:少子化と移民数の少なさ。元岩手県知事、元総務大臣の増田寛也氏が2014年に発表した著書『地方消滅 東京―極集中が招く人口急減』の中で、日本の人口動態の変遷を詳しく分析している。同レポートによると、日本の、896の自治体が2040年までに存続の危機に直面する。

(図中の赤の地域は2040年までに消滅すると推定される自治体。)奥出雲町もその一つ。国立社会保障・人口問題研究所も日本の将来推計人口について似たような結果を出している。

 

少子化問題を抱えている国は他にもあるが、おそらく日本のケースが一番わかりやすい。津和野町と徳島県を訪問したロイヤルメルボルン工科大学のブレンダン・バレット氏は-「日本の地方を訪れると、人口減少の影響が明白にみえてくる。増田寛也氏の推測によると、私が去年訪問した島根県の津和野町は、若年女性の人数が75%の比率で急減し、2040年までには現人口7,500人の半分以下(約3,451人)になる。10月に四国の徳島県にも訪問し、町村の状況が津和野町と同様であることを知った。そして、私は、この両町で放棄された土地と空き家を多く見つけた。

ジャパンタイムズによると、2040年には、所有者不明土地の面積が720万haまで増加し、6兆円相当の金額となる。(ちなみに、オランダの面積は410万haである。)それに加え、空き家の現象も日本各地で広がっている。総務省によると、2013年時点で、全国6060万戸のうち、約800万戸が空き家であった。つまり、7戸のうち1戸が空き家だということである。

2019年の調査によると、空き家戸数が1000万戸までに膨れ上がった。この傾向が続けば、2033年時点で、空き家が全国戸数の3割を占めることとなる。

空き家が増えている原因の一つは財産税である:空き地に課される固定資産税が建物のある土地の6倍もするので、古い建物や農場を取り壊さず、そのまま残す所有者が多い。また、所有者不明の古い空き家が自然災害で被害を受けた場合、地方自治体がその片付けをするケースもある。地方自治体が、「空き家バンク」などのような空き家ウェブサイトや自治体のホームページ(ほとんどが日本語のみ)を通し、都会で暮らしている若者に空き家を別荘として持つ魅力を伝えている。

昨年12月24日に厚生労働省が発表した2019年人口動態統計の年間推計で、日本人の国内出生数は86万4千人となっていた。前年比で約6%減と急減し、1899年の統計開始以降、初めて90万人を下回った。ここで肝心なのは、2022年に90万人を下回るはずだった出生率が、3年早く低下してしまった事実である。対策として、安倍政権が雇用形態と出産・育児環境の改善と移民数を増やす取り組みに努めているが、文化的同質性を大事にする日本では、この取り組みに対する風当たりが強い。3日後、イギリス経済紙の『ファイナンシャル・タイムズ』も、「日本は原住民の人口が1分ごとに1人の割合で縮小するという人口動態の危険な境界線を超える寸前である。」という記事を掲載した。ただ減っていないのは、高齢者の人数である。日本の全人口の28.4%が65歳以上の高齢者で、地方ではこの比率が更に高い:島根県の高齢者の割合は33%である。日本では、個人金融資産の大部分(約17兆ドル)が、高齢者が握っており、高齢者であることには、経済的に安定しているという意味も含まれている。

これで、課題がもう一つ増える:金融庁の推定によると、認知症患者の保有資産が2030年に全国保有資産の一割(約2兆ドル)に達する予測である。高齢者に対する特殊詐欺が全国で発生しており、銀行側が高齢者客の対応に不安を募らせている。評判ヘのリスクと問題を防ぐためのコストと複雑さは、大手の金融機関の経営者にとって、高齢顧客の価値を遥かに上回る。

 

日経アジア新聞は2020年1月1日に、『日本の高齢化:人口動態の危機への対策として、技術に目を向ける銀行』という記事を掲載した。同記事によると、人口減少と高齢化がとりわけ早い農村部は、銀行ローン、住宅ローンと証券会社サービスに対する需要減少の背景にある。成長率を維持すべく、日銀の金融政策上の緩和政策が、利益率を更に低下させた。ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、利息収入がコスト削減よりも急速に低下している地方銀行にとって、打撃が特に強い。不況が進んでいる中、京都信用金庫のような地域金融機関がサービスの再構成を図り、生け花、読み聞かせ、編み物など、高齢者向けの講座も提供している。利用者の約7割が65歳以上であるため、同金庫は高齢者へ対応できる銀行スタッフの育成と配慮に欠けない支店サービスに注力している。高齢者が座りながら相談できるように受付カウンダーを低くし、1700人のスタッフ全員に向かって、認知症の疑いのある顧客への対応を学ぶ研修が実施されている。「出産、家と車の購入、子供の計画、顧客の遺産計画を含む、人々の人生の旅の手段になりたい。私たちのライバルは、低金利で競争する。価格戦争はしない。人々が最終的に、長期的で最善のサービスを提供する銀行を選択すると信じているため、顧客との価値創造に注力している。」と、同金庫の増田俊之会長は語った。
 

地方での過疎化を逆転させる取り組みとして、育児に力を入れている自治体が増えた結果、島根県では、20市町村のうち、9ヶ所で児童数が増加してきた。

マクロ経済の観点から:隣国より急ペースで進んでいる日本の高齢化は、東アジアにおける経済的バランスにも変遷をもたらす。人口減少の影響:経済規模の縮小で、国債管理が更に複雑化する。23.7%に達した日本の政府債務総額対GDP比が世界一である。債務は国民と国内中央銀行が担っているため、国民一人当たりの借金も相当に増えている;日本の公債を賄うには、税収額の半分が既に充てられている。(だが、希望の光として:巨額の公債が日系企業の金融資産によって多少バランスされているため、企業側にとっては有利なものである。)
 

人口の急減と地方の過疎化が、新しいビジネスモデルを生み出している。2013年に藻谷浩介氏が発表した『里山資本主義』では、里山をベースに:何千年も人々の生活を支えてきた里山の持続性が話題化されている。「里山資本主義」とは、お金に依存しなくても、人間が生存し社会生活を営んでいくのに必要な水、食料、燃料等の資源を地域協力で自給自足・物々交換できるようにする仕組みである。

日本総合研究所、主席研究員の藻谷浩介氏は学会発表で:天然資源の循環再生を里山資本主義の核心として取り上げた。

「持続可能な地域づくりのため、各地方自治体が、従来の資本主義を補足・代替する取り組みを採用し、所有の天然資源の資本主義化と若者の帰省を促進させる地域の活性化を図るべき」と語った。日本の環境省と国連高等研究大学が里山資本主義を世界基盤で採用する取り組みとして提唱しており、ジャパンタイムズも同じ取り組みを話題に挙げている。詳しくは、こちら。

里山プロジェクトを「エデンの園」や「地上の楽園」等、実在しないユートピアの世界にしか思えない人は少なくはないが、検討してみていただきたい:人口が急速なペースで高齢化し、減少している反面、未使用の天然資源、空き地と農耕地が増加している国にできることは何か。もちろん、移民数を増やすことは一つの解決法といえるが、実際には限界がある。同様に、子育て支援を見直す必要性については、いうまでもない。

OECDの2013年の調査によると、日本の社会福祉(育児支援、教育、家族手当を含む)対GDP比率はわずか1.3%で、先進国のドイツ(2.2%)、フランス(2.9%)とスウェーデン(3.6%)より比較的に低かった。だが、新政策の結果が出るまでには、長い時間が掛かるので、日本の人口が2110年までに5000万人(1910年当時の人口と同じ)になり得ることを事実として向き合ってみた方が良い。ここで問われるべき問題は:基準の高い生活レベルと洗練された日本社会をどのように維持できるかということである。経済的な面では、現地法人の日経企業が納めている収入は巨額で、人手不足を自動化とロボット化によって補っているが、これだけでは十分なのか?正直、私にはわからない。

 

島根県では、あき子さんに出会った。学歴の高い女性で、東京での仕事を辞め、若者に農業の魅力を伝える農業法人下で奥出雲町へ転職してきた。オーガニック農法を学びたいあき子さんは、奥出雲町に来てからはじめて、地方と大都会の差を実感した。感想を聞いたら、「そうですね。時々は因習的すぎて大変ですが、その分、学ぶこともたくさんあります。ここでオーガニック農家にでもなるかもしれませんよ。とてもありです。」という。

過去数年、都会の底辺への競争、成果主義と熱狂したターゲットの世界から脱出したいという若者に地方でたびたび出逢い、最近の傾向ではないと思った。人生に変化を望んでいる人は世界中にいるが、日本でこの変化を大きく左右しているのはきっと、人口動態の変遷であると思う。そして、比較的に小さくて人口の多い国より、日本は機会も多様である。

1971年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のサイモン・クズネッツ氏は世界を経済的な視点で:先進国、発展途上国、アルゼンチンと日本という4種類に分けた。それから時代が変わってきたが、困難に追い詰められるたびに、日本は、見事な耐性と―型破りな取り組み方を発揮する国でありつづけた。

こんな日本は今後、90年間で半分になってしまう人口減少問題にどのように対応していくのであろう?国土交通省は「国土形成計画」で対策をいくつか提案しているが、最悪事態を想定して、関東や東京都では大地震が発生すれば、日本の人口動態はそれからどう変わっていくのであろう。

私の予測では、都心部で大地震が発生した場合、地方と都会の間に必要な人口バランスが再び取られるはずである。日本政府はこのため、都会で働いている地方生まれと都会生まれの労働者にそれぞれUターンとIターンを勧めている。島根県を訪問すると、地方暮らしも豊かであるということに気づく:必要なインフラがきちんと整備されており、医療システムと教育も正確に機能している。町民は資力があり―土地が広いため、土地の再配分を行うことができれば、食料を自給自足できる可能性もある。そして、集団主義とコミュニティ感を重視する日本では、地方へのIターンやUターンが都心部で羽を広げている「おひとりさま傾向」の対策にもなるかもしれない。

 

私から読者のみなさんに、2020年へ向けてのアドバイス:機会があれば、島根県や鳥取県、秋田県「東京住民が移住したい日本の地方10位」など、地方行きの電車に駆け込み、日々の雑踏から離れてみてください。バック・トゥ・ザ・フューチャーであれ、過去へのファーストフォワードであれ、日本で起きているこれらの現象は、早晩20年~40年間のうちにオランダを含め、他国にもやってくるであろう。

2020年1月吉日   

ラットバウド・ムラリン

 

 

 

 

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